夢と計画
彼は著書『前略、がんばっているみんなへ』の中で、「夢」と「目標」について、このように述べている。
『今はとてつもなく大きく実現できなさそうなことを「夢」という。
しかし、小さな「目標」をクリアしていく先に、
やがて「夢」を目標に変えられるときが来る。』
夢を持つことは重要だ。夢は時に人に勇気を与え、その人間が持っている力を引き出す。
しかし、時に夢は美酒のように心地よく甘美であるために人に淡い希望を与えるだけで終わってしまうことも少なくない。つまり、夢に酔うだけで終わってしまうこともあるということだ。
夢を現実にするためには、夢に近づくための指標が必要である。
その指標こそが目標であり、大きな夢を実現するなら、段階に分けた目標が必要になる。
北島選手は幼い頃、オリンピックの選手になることを夢見た。そして、その夢を現実にするために数多くの目標を持ち、それをクリアすることで夢を成し遂げたのである。
これはスポーツだけでなく、事業でも同じことが言える。「こんな会社にしたい」「こういう組織を作りたい」「これくらいの収益を上げたい」…など、経営者なら誰しも事業に夢を持っているはずだ。
しかし、それを現実にするためには、頑張るだけではダメ。
アスリートと同じように、目標を持ち、その目標を達成していくための計画を持つことが必要なのである。
計画というと、一部の人はアレルギー反応を示すのではないだろうか。
そういう人は、これまで多くの計画を立ててきたものの、なかなか計画通りに進めることができなかった経験を持っているからである。
日々の業務の中で、予想もしなかったトラブルが起こることもあるし、予定外の仕事が入ってくることもある。それに政治的要因(Politics)、経済的要因(Economy)、社会的要因(Social)、技術的要因(Technology)などによって市場に大きな変化がもたらされることもある。(これらの市場に影響を与える要素を「マクロ分析のPEST」という)
例えば、2009年6月1日より、「登録販売者制度」や「一般用医薬品の分類区分の変更」を含む薬事法改正が施行されることになったが、この法律改正により、ネットでの通販に規制がかかる事になる。わかりやすく言えば、ネットでの薬剤の販売ができなくなったのだ。
私の友人にも、インターネットで薬剤を販売している人間がいるが、彼はこの法改正のおかげで、来年からビジネスができなくなってしまったのである。
今の社会状況や世界情勢をみると、今後、マクロのPESTによって、市場自体が変わってしまうことも多々あるのではないかと思ってします。
しかし、様々な要素が割り込んできて、計画を狂わせるからといって、計画自体が必要ないのかというと、そうではない。 むしろ、これからますます不安定になると予想される未来を考えるなら、計画を持つことの重要性は高まるのではないだろうか。 特に、最近の世界情勢をみるなら、今後、予想もしなかったような現実が起こっているかもしれない。
北京オリンピックの男子柔道66キロ級で金メダルをとった、内柴正人選手は、アテネオリンピックで金メダルを取った後、怪我に悩まされ、十分に練習ができない日々が続いた。
つまり怪我により、北京オリンピックに出場するための計画が実行不可能になったのだ。しかし内柴選手は、代表落ちの屈辱も味わう中ですぐに計画を変更し、怪我をしていない部分を中心にしたトレーニング方法にした。
このように、状況が変わったのなら、計画を変えればいいだけなのである。
さて、あなたは、中期もしくは長期にどのような夢を抱いているだろうか?
その夢が手の届きそうにない大きなものでも、夢のままで終わらせることなかれ。
その夢を実現するために、2009年に、どのような目標を設定し、そのための計画を持ってばいいのである。
その目標とは、さらなる事業の展開し収益を伸ばすことなのか、強い組織づくりなのか、それともそれらの両方なのか。 どのような目標を立てるのかによって、よりベストな計画の立て方は異なる。
しかし、計画を立てるときの基本的な思考は同じである。
計画とは、目標を達成した状態になったときに手に入っている要素を洗い出す。例えば、売り上げ目標なら、その売り上げ目標を達成したときに、どのような状態になっているのかを考えるのである。その時、「組織」は、どんな人材が増えていて、「人脈」は、どんなふうに広がっているだろうか。「販売」は、どのような形で展開をしていて、「システム」や「スキル」は、どのようなものが必要になっているのだろうか。
そういった、売り上げ目標を達成したときに、整っている状態をイメージしたら、それがいつのタイミングで必要になるのかをカレンダーに落とし込んでいくのである。2009年末に月商5000万円を達成したときに、必要な人員を考えると、営業マンが後3人は増えていることになる。ではその3人がどのタイミングで必要で、そのためにはいつぐらいから求人を出す必要があるのかを、カレンダーに落とし込んでいくといった具合にである。
こうして、目標を達成したときに当然となっている要素を洗い出し、そこから逆算してタイムスケジュールに落とし込んでいく。それだけの作業で1年間の計画は出来上がるのである。
そして、うまく計画を立てるコツは、それぞれのタイミングで「重要度の高い事柄」からタイムスケジュールに落とし込んでいくこと。
そうすることで、大きな市場の変化は別にして、日々の雑務や突然の仕事に割り込まれ、計画がなし崩しになっていくことを防ぐことができるのである。
こういったより事業を展開させ、組織を強くする計画と同時に、経営者が持ってかなければいけないのが、「事業継続計画」である。
事業継続計画とは、「事業を中断させるような『事象』が発生しても、事業を継続するための計画」であり、その「事象」とは、災害、新型感染症の流行、社員の不注意による大規模な個人情報の漏洩、コンピュータシステムの障害もあれば、出荷済の製品における製造上の欠陥などである。
このような「事象」が発生したとき、闇雲に復旧作業に走るのではなく、重要な業務について、目標復旧時間を定めてスムーズに復旧(あるいは代替策を利用)していくことで、事業への影響を最小限にしながら通常状態にできるようにする計画が会社には必要なのだ。
事業継続計画策定の第一歩は「会社が最優先して継続すべき事業は何だろうか?」と考えることから始まる。
企業にとって、どの事業も大事だとは思う。しかし、人的資源、場所、電源、水、原材料…などなど、企業が持っている資源は限られているため、あらかじめどのような事業が優先されるのかを順位付けしておかなければならないのだ。さまざまな製品を生産しているメーカならば、緊急時に供給を優先すべき製品はどれか? サービスを提供する企業ならば、どのサービスを優先して提供すべきか。また、それらの製品やサービスの提供の停止期間はどれくらいならば許容されるのか。
サプライチェーンを維持するために、主要製品本体の供給を最優先するという会社もあるだろう。また、製品本体ではなく補修部品の供給を最優先とする会社もあるだろう。サービス停止が全く許容されない業務もあれば、1日程度ならば許容される業務もあるだろう。それはまさに企業の置かれた立場や考え方によって異なるものである。
必要な資源が明らかになったら、それらを確保する手段あるいはその資源の代替策を考える。他の事業に依存しているのなら、その依存先の事業も同様に事業継続のための方策を考えるか、その事業に依存しない回避方法を考えなければならない。外部取引先に依存しているならば、その取引先の事業継続計画が自社にとって適切であるか確認することも必要だろう。(自社としては取引先からの製品供給の中断は2日しか許容できないのに、取引先の事業継続計画における復旧目標は5日間かもしれない。)
コンピュータの障害に備えてバックアップシステム用意するのも一つの方法であるが、処理能力は劣っても人手による処理を行うための手順書や様式類を備えるという方法もある。顧客への製品供給責任を果たすために、緊急時には同等品を顧客へ提供してもらうという契約をライバル会社と相互に交わしておくのも有効である。
このようにして、事業継続計画は作成される。しかし、作成しただけではいわゆる「絵に描いた餅」にすぎない。事業継続計画は、その有効性や実現性についてよく検討し、実施訓練しておかないと実際は役に立たない。 「災害が発生するかどうかわからないのに、事業継続計画を策定・維持するということに貴重な資源を割くことは出来ない!」とおっしゃる経営者も多いだろう。もちろん、そういう判断も否定はできない。
災害等が発生したら製品やサービスの供給は諦める。その代わりに通常は低コストでサービスや製品を供給するという戦略である。ただし、もし災害等が発生した場合はサービスや製品の供給は停止し、顧客離れを招き、業績悪化から事業も雇用も継続できなくなるかもしれない。また、事業継続計画のない会社を取引先として選定するのならば、それ相応の覚悟(一蓮托生となる覚悟、あるいは代替策の用意)は必要である。
現代の企業はサプライチェーンで高度にネットワーク化されて相互依存性を高めており、何らかの問題が発生しても適切な水準のサービスを継続することは、企業の社会的責任を果たす上で重要な要素となっている。企業には、事業継続を重要な企業戦略と位置づけ、コストや効果とのバランスをとりながら有効な事業継続計画を策定することが求められている。
このようなリスクヘッジのための事業継続計画と、発展のための事業計画。
その両方を持つことが、今後、さらに不安定さを増す社会情勢の中で、生き残っていくことにつながるのではないだろうか。
一部出典:みずほ情報総研ホームページ「コラム/みずほ情報総研(株) コンサルティング部 隆島省吾」より

