会社に現金を残すための会計学
会計・経理に対して苦手意識を持っている経営者は多い。
京セラ、第二電電の創業者である稲盛和夫氏は、その著書の中で「会計がわからなければ真の経営者になれない」と強く主張している。しかし、この「会計が分からなければ、真の経営者になれない」という言葉の意味は、経営者は会計の専門知識を持つ必要があると言う意味ではなく、キャッシュベースで考え、「儲かったお金はどうなっているか」、「資産か費用か」などをしっかり把握しておけばいいという意味である。
しかし、人間、どうしても苦手意識があるものには取り組みにくいものだ。実際、私自身も会計・経理に苦手意識があったので、その気持ちはよく分かる。そこで今回は、経営に深く関係する会計・経理のことを簡単に理解していただくために、ポイントとなる話をいくつかお話しさせていただこうと思う。
経営で一番大切なことは、「手元にどれだけの現金を残すのか」ということである。売上は増えているのに、利益は下がっている…では、経営は苦しくなるからだ。
しっかりと手元に残る現金を確保していくためには、次の2つのことを考えなければならない。
1) 利益の出る受注(売上)を増やす
2) 利益の出る受注(売上)に結び付かない経費を減らす
利益の出る受注を増やすためには、まず、どの売上が利益が出るものなのかを理解する必要がある。
同じ価格の受注を受けたとしても経常利益(売上高から売上原価や販売費などの営業費用を差し引いたもの)が同じとは限らない。
商品によって利益率は異なるし、取引先によっても利益率は異なるからだ。そのため、利益が出る売上がどれなのかを知るためには、「商品と経営利益の関係」と「取引先と経常利益の関係」を把握することが必要になる。
「商品と経常利益との関係」は、簡単に計算することができるだろうし、もうすでに頭の中に入っているかもしれない。問題なのは、「取引先と経常利益の関係」である。
この関係を知るためには、売上はもちろんのことだが、販売費、一般管理費、製造間接費などを、取引先ごとに算出する必要がある。この数字を正確にはじき出そうと思うと、厳密に固定費と変動費を区分するのが難しいなどの問題も出てくるが、経常利益が高い取引先を把握することは、経営戦略を立てるときに非常に重要なことなので、数か月分(過去でも、今後でもいい)のザックリとしたものでもいいので、算出し、把握しておきたいものである。
何事も、まずは、現状を正しく把握するところから始まるものであるが、この数字が理解できていれば、手元に現金を残すために、何処に力を入れれば良いのかが見えてくるはずである。
次に、利益の出る受注(売上)に結び付かない経費を知ることであるが、そのためには、「利益の出る受注(売上)と各経費との相関関係」を求める。どのように算出するのかを書くと長くなるので割愛させていただくが、会計ソフトの勘定科目の設定と仕分けデータの入力方法をいじれば、算出できるようになるはずである。こうやって受注と各経費の相関関係を分析し、負の相関関係となっている経費や相関係数の低い経費を洗い出して、検討するのである。
もちろん、この2つの項目共に、経営者が算出する必要は無い。経理担当に算出させ、経営者は出てきた数字を把握し、今後、手元に現金を残すためにどのように展開するのかをジャッジすればいいのである。
このようにして手元に現金を残す努力をしたとしても、経営をしていれば、どうしても資金が足りなくなり、借り入れを起こさなくてはいけなくなるときもある。しかし、昨年の10月から責任共有制度が導入され、金融機関のリスク負担が増えることで、結果的に中小企業の資金調達環境が厳しくなっている。
そして、今年の10月からは、国民生活金融公庫、中小企業金融公庫、農林漁業金融金庫、国際協力銀行(国際金融等業務)が統合され、「日本政策金融公庫」としてスタートすることが決まっている。
日本政策金融公庫の資料を見ると、中小企業者に対する貸付に関して、重要な施策の目的に従って行われるものに限定する規定が盛り込まれている(一般貸付を廃止)。
このような現状を見ると、中小零細企業が借り入れによって資金調達をするのは、どんどん難しくなってくることが予想できる。(今後大きな資金調達の予定がある方は、日本政策金融公庫がスタートする前に行動を起こすのが賢明だろう)
銀行取引のポイントを一言で言えば、「彼を知り己を知れば百戦危うからず」。つまり、銀行のことをよく知ることと、自社のことをよく知ること。この2つができれば、特別難しいことでは無いといえる。
ここでいう「自社のことを知る」とは、自社の内部を把握しておくということではなく、自社に対する客観的な評価(外部から見た評価)を把握しておくこと。
客観的な評価方法でよく使われるのが「経営指標」。これは決算書(毎期税務署に提出している書類)に書かれている数字を分析する方法で、これを把握しておけば、自社のことを客観的に理解できると言えるだろう。と言っても、決算書を引っ張り出してきていちいち計算をする必要はなく、インターネットにアクセスして、「経営自己診断システム」のホームページに行けば、決算書の数値を入力するだけで経営指標(財務指標)を自動的に計算し、業界平均などと比較できるサービスがある。例えば、このサービスを使って自己資本比率が業界平均よりも高ければ、自社の安全性はそれだけ高いということを客観的に分析することができるわけである。
経営自己診断システムには、個別指標の解説や資金繰り診断もついているし、会社名を入力する必要がなく無料で利用できるので、客観的な自社評価の判断をする際に便利なシステムとなっている。(経営自己診断システムhttp://k-sindan.smrj.go.jp。「経営自己診断システム」で検索するとトップに表示される)
銀行を知るとは、銀行がどのような会社を信用するのを知ることである。銀行が信用をするのは、特別黒字の会社だけではない。例えば、いつでも銀行に自社の状況を進んで報告する会社(決算後に決算書を提出し、説明をつけるなど)。「借りたものは返す」の原則を守り、一時的でも返済が滞る心配があるようならリスケジュール等をきちんと検討する会社。今後の事業計画、資金計画が明確な会社。銀行に社長自身が説明できる会社など、考えてみれば、お金の貸し借りという信用が第一条件となる取引をする上で、非常に当たり前のことをしっかりする会社である。
実際に赤字だろうが、債務超過だろうが、このポイントをしっかり守っていたために、借入ができた会社はたくさんあるのである。もちろん経営者としては借り入れに依存しない経営を心がけることが大前提であることはいうまでもないのだが…。
さて今回は、会社に現金を残すことと、それでも現金が不足した場合の借り入れの二つについて話をしてきた。こうして原稿をまとめながら、今更ながらに思うのは中小零細企業においてキャッシュフロー的な会計の感覚を持つことの重要性である。キャッシュフローでは現金収支を原則としているため、将来的に入る予定の利益を含んでは考えない。
売上が伸びているのに、資金繰りが苦しくなる会社はたくさんある。経営者は常に自社がどれだけの現金を動かすことができるのかを把握しておくべきだし、特に中小零細ではこの部分に神経質なまでにならなければいけない、といえるだろう。

